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かたおか小児科クリニック

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小児救急医療システム

小児の救急医療体制については小児医療の「不採算性」「小児科医不足」などの問題と絡んで全国的に深刻な問題となってい ます。
川崎市でも小児救急医療体制の現状を危惧する小児科医が集まって「川崎市の小児救急医療を考える会」(会長:新保敏和帝京大溝ノ口病院小児科教授) を立ち上げて小児救急医療の今後の道筋を探っているところです。

本稿はこの会での討議にかけるため片岡@かたおか小児科クリニックが提出した意見です。
この会の議論はまだ継続中ですが、本稿や小児救急のあり方などご意見がおありのかたは
片岡tkata@kinet.or.jp
までご連絡下さい

川崎市の小児一次救急医療体制についての提案

1. はじめに

 小児の救急の9割は軽症でその大半は結果的には夜間の受診を必要としない、というのは多くの救急の統計が示している。急な発熱や、不機嫌などで育児経験の 浅い親が不安になって救急に駆け込む、というケースが多い。
また、共稼ぎで保育園に預けられている子どもの場合、日中の受診機会を逸して夜の受診になると いうケースも多いであろう。こうした救急受診が現在の救急外来のかなりの部分を占めていると思われるが、コンビニ感覚で気軽に救急を利用されては困るとい うのは、医療側からの論理である。受診する側にはそれなりの事情がある。不要な受診を減らす患者教育も必要ではあるが、いくら患者教育を徹底したとしても こうした受診がなくなることはない。
少子化の現在、一組の夫婦が子どもを育てる機会は確実に減っているし、少ない子どもにかける思い入れは以前にもまして大きくなっている。こどもの病気で 不安なときはすぐにも医者に診てもらいたいし、それも小児を見てくれる医者に診てもらいたい、という気持ちが根底にある。
こうした背景がある以上、医療の側が好むと好まざるとに関わらず一次の患者はどこか空いているところに集中する。患者側の希望を無視しては小児救急は成り立たないのである。
少子化時代の子育て支援という意味合いもこめて小児救急は考えなければならないのではないか。

2. 川崎市の現状

 「川崎市の小児救急医療を考える会」で行われたアンケートによれば、現在市内で毎日小児科医が当直する医療機関は7カ所ある。これは郡部に比べればかなり多い数字である。
このうち一次救急に時間帯やかかりつけかどうかのしばりをつけているのが3医療機関(いずれも大学付属病院)で、「24時間対応」として制限をつけていないのが4医療機関である。
これらの病院では一次患者が多いため二次三次の患者の診療に支障をきたし、入院患者への対応も必要なため当直医は疲労は並大抵ではない。
川崎市では多摩夜間診療所で準夜帯のみの夜間診療を行っているが、小児科医が小児を診る確率は40%、内科小児科を含めても75%である。しかも、点滴 ができない、検査ができない、レントゲンが撮れないなど何らかの処置が必要な患者には対応できない。このことが市民に知れ渡っているため、利用者は少なく 平日準夜で平均4-5名に低迷している。
休日の日勤帯は市内7区の休日診療所で内科・小児科の診療を行っているがこちらは小児を小児科医が診る確率は7区平均で30%である。これでは患者の目は小児科当直医のいる総合病院にむかうのは無理もない。
深夜帯となると毎日受け入れ可能な医療機関は4カ所になる。

3. 夜間診療所を救急医療センターに

小児の一次救急が大病院にむかうのは、
1)小児科医が必ずいる
2)検査や処置、場合によっては入院も可能である
という2点によることが大きい。患者の側の意識としては、明日まで様子見ても大丈夫かどうかを判断してもらうために救急を受診するわけではない。問題の解決を求めている。
したがって現在の一次患者の大病院集中の現状を緩和するためには、一次救急の医療機関をまず「必ず小児科医がいる」状態にする必要がある。
現在の多摩夜間診療所の出動医のうち小児科を第一標榜としているのは24人であり、うち勤務医が6名である。かりに現在のままで準夜帯のみをカバーすると、ひとり月1回以上になる。
またこれが実現したとしても、多摩夜間診療所は市の北部にあるため南部の地域での問題は解決しない。
南北に長い川崎市の地形と120万人の人口を考えると、一次診療所は最低2カ所、できれば3カ所が望ましい。
仮に2カ所としてひとり月1回とすると出動医は準夜帯だけで60人必要になる。
現在各区の休日診療所に出動している小児科医は7区あわせて48人である。これを医師会員である小児科医で救急当番に出動可能な数と考えると医師会員の小児科医を全部動員しても2カ所をまわすのは不可能である。

4. 救急に出動できる小児科医を増やすためには

1)時間帯の見直し
現在多摩夜間診療所に出動していない小児科医の中には、診療開始時間に間に合わないからということで手揚げしない方もいるようである。現在の7時診察開 始、11時までというのを7時30分診察開始、11時30分までに変更したら出動可能な小児科医が増える可能性がある。確認のためのアンケート調査の必要 があると思われる。

2)医師会員以外の小児科医を
現在の医師会員に限るとしている出動医を、医師会員以外でも市と契約を結んだ医師なら出動できるように変更する。
勤務医はそれぞれの病院で当直があるが準夜や休日の日勤に月1回程度なら出動できると思われる。勤務医にとっても夜間診療所の報酬は魅力的である。(もし私が今も勤務医であったなら月に2回くらい働きたいと思う)

3)内科・小児科標榜の医師でも小児を中心に診ている方については、「小児科医」として出動してもらう。実際開業にあたって小児科のトレーニングをされた 方も多いと思う。日常の診療で乳児の診療に携わっているかたに「小児科として出動」できるかをアンケート調査する。

以上の方法で最低でも60人の出動医は確保できるのではないかと期待する。
即ち、準夜だけに限れば一次救急をになう夜間診療所は市内に2カ所設置可能である。
2カ所の夜間救急を運営する経費を市が拠出する必要があるから行政との折衝も必要である。しかし小児科医常駐により患者数が増えれば経費が2倍になるとは限らない。

5. 救急医療センターを二次病院併設型に -北部病院(仮称)との関係-

 平成17年に開業予定の川崎市北部病院(仮称)は救急をひとつの柱に掲げている。何名の小児科医が配属されるかはわからないが、予定されているベッド数 から見て多くても6-7人、普通なら5人くらいというところであろう。地理的関係から見て現在聖マリアンナ医大に向かっている一次患者のかなりの部分が北 部病院の救急に向かうであろうことは充分予想される。救急をになうことを目的のひとつとしているので夜間の受付時間の制限などもできない。むしろ11時で 救急をストップしている聖マリアンナ医大の受け皿として期待されることになるだろう。この状態を上記のスタッフでこなすことになるとすれば、当直医の負担 は過重なものになると思われる。
一方、北部病院がオープンしたら多摩夜間診療所の患者はまずゼロに近くなるだろう。
この際に、多摩夜間診療所を北部病院内に移して一次の患者は夜間診療所の方で診る体制を提案する。運営はともに市であるから統一する事も可能であるし、別々になっても差し支えない。レントゲンや血液検査などは共用すればコスト的にも有効である。
これは北九州市の八幡病院や千葉市の海浜病院で行っているシステムであるが、二次(三次)病院に併設されているという効率の良さと、患者側から見ての安心感から成功している。
救急をうたう新病院を作るのであるから、この病院を市全体の救急体制の中でどう位置づけるかは議論されるべきである。

6. 併設型救急医療センターを市内2カ所に

 一次医療施設は北部病院の位置から考えて、南部は幸区あたりが適当かと思われるが適当な核となる医療施設がない。
市立川崎病院が多くの一次患者をかかえていること、北部の対行政関係との整合性からも当面は市立川崎病院が一次併設施設の第一候補となる。
一次救急施設を病院の敷地内に設置するか、現行の病院内の救急施設に出動医が入って救急業務を行うか、隣接する川崎休日急患診療所を夜間診療所にするか、いくつかの選択枝が考えられる。

7. 深夜の体制は

 深夜の救急を医師会を中心とした体制で組むのは難しい。前述した方法でどの程度勤務医が出動してくれるかが問題である。勤務医の呼びかけ対象を都内や横浜の大学病院まで拡げると可能であるかもしれない。
しかし、一気にそこまで拡大できる力量は残念ながら今のところない。また、深夜帯になると患者数は大きく減るし二次、三次の患者の割合が増える。
当面は準夜帯を2カ所の夜間診療所でカバーすることとし、準夜帯の運営が軌道に乗った段階で深夜帯まで延長することを考えるのが現実的である。

8. 休日の体制は

 休日診療所は各区ごとに運営されている。小児科医の出動率を7区全部で100%にするのは小児科医の絶対数から考えて難しい。休日診療所も小児科医常駐は2カ所ないしは3カ所に決めてしまうことが必要である。
抜本的には区単位の休日診療所を廃止して市内2-3カ所の休日夜間診療所(救急医療センター)に統合してしまうのがよいだろう。

9. 広域の体制を

 休日診療所で出動医の区ごとの縛りを解消するだけではなく、市境では相互乗り入れを考える必要がある。たとえば横浜の北部救急(都筑区)は高津区や宮前 区の一部では多摩救急より利用しやすい。出動医師も横浜の方が近いという場合もある。この場合、横浜に出動することも考えた方がいいのではないか。横浜の ほうが便利な市民は大手をふって横浜を利用してもらいたいと思う。むろん逆の場合もあり得る。横浜の開業医が川崎の夜間診療所に出動することも、市と医師 個人が契約すれば可能になると思われる。双方の出動報酬の違いがネックになるが、解決できない問題ではないと信じている。

【要約】

1.一次救急施設を市内2カ所におき、小児科医の常駐体制をとる。
北部は多摩夜間診療所を拡充する。
南部は市立川崎病院内に併設する。
川崎市北部病院(仮称)が開設されたら、多摩夜間診療所の機能を北部病院内に移管する。

2.出動医は医師会会員である小児科医のみならず、市内医療機関の勤務医、市外の大学病院の勤務医、近隣都市の開業小児科医とする。

3.当面準夜帯をカバーすることとするが、将来は深夜帯までを目標とする。
4.市境では出動医、患者の相互乗り入れをはかり、行政単位にとらわれない広域救急体制を目指す。