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かたおか小児科クリニック

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川崎市の小児救急の再編 -何が変わったか、どこが問題か-

1. 小児急病センターのスタート

 川崎市の小児救急の再編から1年6ヶ月が経った。医療審議会の答申を受けて、2002年4月に市立川崎病院に「川崎市南部小児急病センター」の看板が掲げられた。引き続いて6月に多摩夜間休日急患診療所が「川崎市北部小児急病センター」と改称。

 そこまでにはいろいろ経緯はあったが、とにかくスタートせざるを得ない状況となった。

 この再編で、それまでの小児救急体制からどこが変わったかというと、

  1. 市立川崎病院の小児科の医師定員が3名増員されたこと。その代わりに川崎市南部の小児初期救急患者のほぼ全部を受け入れる。名称を「川崎市南部小児急病センター」に改称。
  2. 多摩夜間診療所にX線撮影装置、血球計算機などの簡易検査機器を設置。診療時間帯を午前6時まで延長した。名称を「川崎市北部小児急病センター」に改称。深夜帯のほぼ全てと準夜帯の一部の出動医を川崎市医師会員以外の勤務医に依頼する。
  3. 聖マリアンナ医大本院の夜間急患センターから小児科ブースを撤去。準夜帯の初期救急を原則として廃止。
  4. 市内の小児科入院施設のある8病院が2次輪番病院となり1次救急からの転送を受け入れる。
  5. 原則として初期救急の患者は南北いずれかの小児急病センターでみる。そのことを徹底するために市民に広報周知をはかる。

以上のような方向で新体制はスタートした。

2. 病院小児科の救急は楽になったか

 この小児救急の再編は表向きはどうであれ「病院小児科の疲弊を救う」ことにあっ た。休日の日勤帯は各区の休日診療所があり、準夜帯は多摩夜間休日診療所が一箇所だけ設置されていた。しかし、これらの急患診療所は小児科医が居なかった り、施設が不備であったりして、小児急病患者の大半は病院小児科の救急外来を受診していた。このため病院小児科の当直勤務は過重な労働になっていた。小児 救急患者をこれら病院の救急外来から「小児急病センター」に誘導して病院小児科の当直勤務の負担軽減をはかるというのが再編の大きな目的であった。

(表1、2)
小児急病センターにおける患者数比較表

 北部小児急病センターがスタートしてからの患者数の比較である。平成13年度の6月から2月までの合計3822人に比べて発足後の同時期に9625名の患者が受診している。伸び率としては252%である。1ヶ月あたりの増加数としては640人。1日あたり21人。 この分が北部地域の病院の救急外来からすべて減ったわけではないが、各病院をならすと若干は減って楽になったと言えるだろう。しかし、各病院の小児科医の 数が増えたわけではないので、ひとりの医師が当直する回数は変わらない。「初期救急は小児急病センターへ」とアナウンスされていても直接病院の救急外来を 受診されれば診ないわけにはいかない。結局起こされる回数は少し減ったが実感として「楽になった」とは言えないようだ。さらに「2次輪番」の日には救急車 が集中して来ることが多く、確実に以前より忙しくなったという。差し引きすると、病院小児科の負担としてはプラスともマイナスとも言えない状況ではないか と思われる。

 一方市立川崎病院が南部小児急病センターに変わってからの変化を同じ期間で比べてみると、平成13年度が7662人、14年度は11644人となっている。これは9ヶ月の統計なので12ヶ月に換算すると14年度は約15000人ということになる。伸び率としては150% だが、もともとの患者数が多いので実数としての伸びは多大である。北部の病院が「小児急病センター」によって多少なりとも負担軽減がなされたのとは反対に 市立川崎病院では負担増となった。3名増えた小児科医の定員を満たせないことの責任の所在はいろいろあるだろうが、現実としては2列の当直体制をとれない 人数でこの患者数をこなすのは限界を超えている。しかしこのことはスタート前からわかっていたことだった。

 解決策としては定員を実働部隊でうめて(2交代の)シフト制をとるか、開業医や外部の勤務医を初期救急の要員として組み込むか、いずれかしかないように思われる。

 「川 崎市の小児救急を考える会」の議論中に、市立川崎病院に併設する形で開業医などが出動する小児急病センターを作るという案があった。この案は日の目を見な かったが、再検討に値すると思われる。ただ、この時の議論では市立川崎病院の小児科医局は併設案に反対であった。この経緯を総括しないことには話は前に進 まないのではないか、というのが個人的な感想ではある。

3. 市民のアクセスはよくなったか

 たとえ2箇所でも「急病センター」として深夜帯まで開いている施設があるというの は受診者側からいえば心強いものと思われる。しかし、北部小児急病センターの受診者の住所地をみると大半が多摩区麻生区で北部全体をカバーしているとは言 えない。人口120万人で南北に細い地形を考えると、どうしてももう一箇所くらい「急病センター」が欲しいところだろう。

4. 出動医の確保

  「北部小児急病センター運営委員会」というのがある。4ヶ月に一度開かれるのだが、何のことはない、出動表の空欄を埋めるための会議だ。準夜帯はだいたい 埋まっている。問題は土日休日と深夜だ。アンケートが医師会員に送られて、どの程度協力できるかを回答する仕組みになっている。開業医で深夜帯を可とする 人は希である。たしかに深夜帯に開業医が出動するのは難しい。しかし、土日や休日を年に1−2回出動するのはそんなに大変だろうか。各区の休日診療所の当 番もあるのでそんなに回数は期待できないが、川崎市の小児科医の数からすればその程度で北部小児急病センターの土日休日の当番は埋まるはずだ。

近い将来南部の急病センターにも開業医が出動する体制を作るとなると、準夜帯も含めて今以上の出動が求められる。小児科を標榜している診療所の数から言えば2箇所の準夜帯と休日日勤ならまかなえるはずである。

現在南北の小児急病センターだけでも年間28000人の「救急」受診者がいる。その大半は昼間は開業医の「顧客」だろう。小児科という科を選んだ以上開業医が時間外患者にノータッチというわけにはいかないのではないか。

現在何らかの理由で小児急病センターへの出動に協力できない人も、できるところを探してでも協力してもらいたいと思う

5. 「小児急病センター」の今後

  川崎市北部医療施設が来年にはオープンする。北部小児急病センターをそちらに移動するという話はすでに立ち消え状態になっている。もともと北部医療施設の 運営を受託した聖マリアンナ医大がそこでの「小児救急」の展開に消極的なこと、休日急患診療所がなくなると地区医師会の活動場所を確保できなくなるという 問題などがからまってそういう方向に向かっているのだろう。しかし、北部医療施設の設立趣意は「地域医療・救急医療」だということを忘れてはならない。設 立趣意書には「小児を含めた24時間態勢の救急医療体制を作る」と書かれている。市民の税金を使って作られる病院である。このことを忘れてはならないと思 う。

北部小児急 病センターのような独立型の救急施設は病院併設型と比べて重症患者の対応がむつかしい。ということは利用する側からすれば、頼りない。心配なら急病セン ターじゃなくて病院に行ってしまう。これが現在の北部小児急病センターの状況だろう。新しい病院が作られるチャンスなんてそうあるものではない。ここを逃 したら、川崎の小児救急はずっと足踏みしたままになってしまうのではないかと危惧するものである。