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不活化ポリオワクチンについての補足

2011/10/21

 10月18日付けのブログ記事「神奈川県の不活化ポリオワクチン集団接種」は事実関係の再検証のため一時非公開とします。近々再編集して公開します。

その代わりと言っては何ですが、「川崎市小児科医会会誌」に寄稿した拙文を再掲します。執筆は今年5月です。

 不活化ポリオワクチンの接種を始めた

             高津区 かたおか小児科クリニック 片岡 正

 

ここ30年間、日本では野生株ポリオウイルスによるポリオ麻痺の患者は出ていない。しかし、毎年数例のポリオ麻痺の患者は出続けている。ワクチン株ポリオウイルスによるポリオ様麻痺(Vaccine Asocsiated Poliolike Paralysis VAPP)である。

VAPPにはワクチンを接種した人が麻痺を起こす場合と、ワクチンを接種した人の便から二次感染して周囲の人が発症する場合がある。

感染研のデータによればこのVAPPの発生は四百数十万接種に1例とのこと。現在の日本の出生数100万から考えて、2回接種として年間二百万接種、2年に1人の発生ということになる。

これは感覚的にもおかしい。2010年には神戸と藤沢で報告されていている。

WHOの推計では接種100万人に2-4人とされている。こちらの方が実感に近い。

野生株ポリオが撲滅された日本で毎年数人のポリオ麻痺の患者さんが出る。先進国と言われている国でいまだに生ワクチンを使っているのは日本だけ。

どうして日本では不活化ワクチンが使えないのかというのは素直な疑問だ。

 

日本ではポリオワクチンは「日本ポリオ研究所」という国立感染研から分かれて民営化された会社が独占的に製造している。

この会社が2005年に不活化ポリオワクチンの製造承認の申請を出したのだが治験デザインの不備で却下され、そのまま申請を取り下げてしまった。DPT3種混合との混合ワクチンの申請だけにしぼって開発をすすめることにしたというのだ。

独占企業が製造を断念したので単独の不活化ポリオワクチンは国産では作られないことになった。

 

現在治験が行われているDPTとの4種混合は仮に認可されても、すでにDPT接種が済んでいる人にはDPTの過剰接種となるため接種できない。

単独の不活化ポリオワクチンを接種するには輸入するしかない。しかし厚労省の考えは「国策」としてワクチンの国内自給体制を維持すること。

単独不活化ポリオワクチンを輸入するにしても承認を得るには一から治験を始めて大変な道を歩まねばならない。ヒブワクチンが日本で承認されるまでにどれほどのハードルがあったことか。

正面からの輸入承認は厚労省が新型インフルエンザワクチンの時のような「緊急輸入」を認めない限り難しい。

しかし、不活化ポリオワクチンを求める声は大きくなってくる。

ポリオワクチンの被害者による「ポリオの会」の活動も大きかった。

 

これまでも海外渡航のワクチン接種要件を満たすために輸入ワクチンを扱っているクリニックはあった。しかし、数は限られているし、接種のキャパも大きくない。

不活化ポリオワクチンを求めてあちこち探し回る人も増えてきて、不活化ポリオワクチン難民と言うべき人々が出てきた。

20106月から渋谷区の宝樹先生(川崎市小児科医会の会員だったこともある)が不活化ポリオワクチンを個人輸入して希望者に接種し始めた。トラベルクリニックや在日外国人対象のクリニック以外の普通の小児科としては(たぶん)初めてだろう。

宝樹先生とは親しいので孤軍奮闘ぶりに頭が下がったが、すぐに追随という気持ちにはならなかった。しかしTwitterでさかんに不活化ポリオワクチンの情報を発信してくる。これが、本当にしつこい(笑)。

2010年の秋には、かなり洗脳されていた。熱意に負けたと言うべきかも知れない。

未承認のワクチンを輸入して接種するというのは結構なハードルに感じられたが先達がいるというのはありがたい。結局、11月に不活化ポリオワクチンの輸入を決定して2011年1月から接種を始めることにした。

 

ワクチンの個人輸入を仲介する業者があって、不活化ポリオワクチンを扱っているのは6社ほど。そのうちの大手2社と契約した。

最初に手輸入手続きに必要な書類をあずけるとあとはメール1本で発注できる。

輸入自体は思ったより簡単だったが、健康被害が起きたときの補償が大きな問題となった。接種をためらう方の多くがこの点を心配されている。

定期接種では国が任意接種ではPMDAが万一の健康被害の補償の窓口になるが、未承認ワクチンなので補償を受けることができない。

輸入商社の用意する補償制度があるのだが、これは患者が接種医を相手取って損害賠償請求の訴訟を起こすことが前提となっている。接種医に過失はなく、かつ、ワクチンと健康被害の因果関係を認める判決が出たら補償すると言うもの。これは事実上無理。こんな補償制度ならない方がまだよいくらい。

患者さんには、補償は事実上ありません。しかし、10年以上の海外の実績から健康被害がおきる確率はきわめて低いです、というような説明をして同意書に署名していただいている。

同意書の効力については問題があるかも知れないが、それ以上のことをぐずぐず言ってためらうのもよくないだろうと考えた。

 

接種の予約申し込みはホームページ上の「申し込みメールフォーム」から受け付けるようにした。

電話予約にすると申し込みだけでなく問い合わせも殺到して窓口業務に差し障りが出るだろうという読みだった。

ホームページ上に必要な情報は極力載せるようにして「電話でのお問い合わせはご遠慮下さい。」という掲示を出してある。この方式はなかなかうまく行ったと思う。

メールフォームでの申し込み情報はエクセルの一覧表になるのでこれが自動的に予約簿となる。

接種のお知らせもすべて同報メールで送るということで窓口の負担も軽減できた。

 

実際の接種はワクチンの入荷が遅れたので始めたのは1月中旬から。

予約は日増しに増えてくる。

報道で不活化ポリオワクチンが取り上げられるたびに予約が急増した。

それでも何とか大きな混乱もなく接種は続けられた。

大震災の影響でワクチンの輸入が滞った時はさすがに新規予約を止めたが、それも半月ほどで復旧した。

接種数は1月33、2月8731034162と右肩上がりの増加。予防接種の予約時間枠内では対応しきれなくなってきた。

さてこれからどうするかというところで、ポリオワクチンを巡る情勢に大きな変化が現れた。

 

2011年5月下旬になって、DPT3種混合に不活化ポリオを混ぜた4種混合ワクチンが2012年中には認可されるという見通しが出された。

4種混合ワクチンの認可に先立って単独不活化ワクチンの「開発」に着手という発表もあった。「開発」と言っても新規の開発ではなく、現在私たちが個人輸入しているサノフィパスツール社のImovaxPolioを国内治験を省略して2012年中に承認すると言うことらしい。

ずいぶん風向きが変わったものだ。

厚労省の姿勢の変化は望ましいものだ。

変化のスピードにはまだまだ不満もあるが、これからは急速にポリオワクチンの不活化への道が開かれるだろう。

私たちの不活化ワクチン接種の動きが少しでも寄与できていたら嬉しいのだが。

 


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