2016/09/10
先月からの麻疹が各地で小流行を起こしている。千葉県松戸市、幕張メッセのコンサート、立川のアニメイベント、そして関西空港関係者の大規模流行と、関空とは関係が無さそうな尼崎の保育園での園児の感染。
私たち小児科医が一番恐れているのは、保育園に麻疹が持ち込まれて、まだワクチンを接種できない0歳児が感染する事態だ。
さいわい、尼崎の保育園のケースではかかった全員がMRワクチン接種済だったとのこと。
えぇー、ワクチンうってたのに麻疹にかかるなんて。ワクチンなんて意味ないじゃん。と思われる方もいるかも知れない。
そんなことはない。
ワクチンを打っていたから、本当にこれが麻疹なのかというほど皆症状は軽かったとのことだ。この集団がワクチンを打っていなかったらどんな事態になっていたか、想像するだけでも恐ろしい。
ワクチンは100%感染を防ぐわけではない。だから、麻疹ウイルスに晒されたら発病する事はある。しかし、発症しても症状は軽い。こういうワクチン接種済で軽く発症する麻疹を修飾麻疹という。
修飾麻疹の診断は結構むつかしい。典型的な症状がそろわず、麻疹らしい重症感が無いのである。
50歳代以上の小児科医なら研修医の頃から麻疹の怖さを身に染みて知っている。それでも、滅多に麻疹をみなくなってから結構な時間が経っているので、いきなり外来に現れた患者を麻疹と診断できるかと言われたら、ちょっと自信がない。
まして、症状が麻疹らしくない修飾麻疹はどうだろう。
ここで大切なのは、もしかしてと思ったら検査してみるということだ。
保健所に届出すれば検体を取りに来てくれる。
空振りでもよい。それは決して恥ではない。
そして、「もしかして」と思う感性を研ぎ澄ませておくことだ。
今回の麻しんの流行で成人のワクチン需要が急増したら、あっと言う間にワクチンが足りなくなってしまった。
当院でも毎週1回定期接種で使うワクチンを卸に発注するのだが、卸から納品はよくて半分、納品できない可能性もあるとの一報が入った。これには慌てたが、結局、注文した半分量が納品された。
わが国ではMRワクチンはメーカー3社が作っているが、生産量は定期予防接種分がかつかつで余裕がなかった。そのところに、シェア20%の会社が昨年12月から製品に問題があって出荷を停止する事態となり本当に余裕がなくなっていた。
こうなると、ワクチン接種は定期予防接種のMR1期、2期を最優先とするほかない。それでも足りなかったら2期を少し待ってもらうことになる。
0歳児への緊急接種についてはお問い合わせが多数あるのだが、当地での流行状況は緊急接種をおこなうレベルではないと判断している。
それに、接種希望者が殺到しても打つべきワクチンが足りない。
まして、成人の未接種者、接種歴不明者に回す余裕がない。
そもそも、今回の流行に対する短期的な手段として、いまごろから任意接種を呼びかけるのはいささか手遅れなのである。
今さら悔いても遅いが、MR3期(中学1年)4期(高校3年)の5年間の接種期間が終了したらそれで終わりにしないで、その間の接種漏れ者と更にその上の年代に公的な接種を順次拡大すべきだったのだ。
今の状況は、あの時に埋められた時限爆弾があちこちで爆発しているということだ。
楽観的な見通しで言えば、今回の流行は早晩おさまるだろう。
その時、時限爆弾の事は忘れて、平和ぼけの日々に戻ってしまうようなら、また同じ後悔をくり返すことになる。
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